平成22年度 戦略的大学連携支援事業 活動報告書
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原子炉圧力容器は鋼鈑を溶接することにより製造されているが、溶接線を減らして信頼性を向上し、コストと工期の短縮を図る大型鍛鋼部材を用いた圧力容器鋼が増えてきている。大型鍛鋼部材用に数百トンオーダーの鋼塊を鋳造・鍛造・加工するのは高度な技術であるが、これに用いられるがA508、Cl.3鋼はA533B鋼と比べても遜色の無い機械特性・照射下特性を持っているとされる。軽水炉の原子炉圧力容器鋼における照射脆化へのCu、Pの寄与とメカニズムは明らかとなっているが、不純物Cuの少ないわが国の原子炉においては、Cuリッチ析出物以外の要素が重要となり、3次元アトムプローブの研究によってMn-Ni、Mn-Siの溶質クラスタの形成が重要な役割を果す可能性が示されてきた。国内の延性-脆性繊維温度(DBTT)の上昇予測式には溶接金属部を対象としてCu、PにプラスしてMn、Ni含有量が加わってはいるが、MnをはじめMoやCrなど他の元素は盛り込まれていない。SiやMnの照射脆化への長期的な寄与は明らかになっておらず高経年度化対策や次世代原子炉材料の開発のための研究が必要である。A508鋼についてもA533B鋼同様にMn,Siの脆化への寄与は明らかでない部分が多い。高経年化に伴う原子炉の監視試験片の解析の進行により、マトリックス損傷に分類されるCuリッチ析出物以外の析出物の長期的な効果が明らかになるのは今後であると考えられる。その結果によって今後Si含有量についても何らかの対策が必要となる可能性があり、予めSiの照射脆化への研究を進めておくのは高経年化に伴う安全対策と言う面でも重要である。低Cuの圧力容器鋼では照射脆化へ寄与する安定マトリックス損傷が、マイクロボイドか格子間型転位ループであるかというのは研究が進められている最中であるが、格子間型転位ループが主要な機構であれば、イオン照射実験によってSiの脆化への効果を明らかにする事が可能と考えられる。A508鋼の基礎的な特性は取得されているが、Siにからんだ照射脆化と言う観点では十分とは言えず、本課題では低Si材と併せてマクロからナノスケールまでの微細組織解析と強度特性を詳細に取得し、かつイオン照射実験および微小試験片技術を用いて、将来的なSi添加量と照射脆化の相関関係を明らかにするための基礎的情報を得ることを目的とする。2.1 低Si含有A508鋼の製造 低Si含有A508鋼の製造技術および鋼塊の特性確認のために、株式会社日本製鋼所室蘭研究所にてA508鋼Cl.3相当の組成のA508相当鋼、およびSi添加量を段階的に減少させた低Si添加A508鋼の50kg実験室VIM溶解鋼を製造した。鍛造条件、熱処理条件は可能な限り現実に製造されている大型鍛鋼部材に近づけるものとし、表1原子炉圧力容器用網におけるSi(シリコン)添加量の研究■ 教育研究部会 活動報告 研究小委員会室蘭工業大学 大学院 教授 幸野 豊/准教授 岸本 弘立東京都市大学 工学部 准教授 白木 尚人緒言1活動および成果2表1 化学成分(標準材)図1 50kg実験室VIM溶解により製作されたA508相当鋼の寸法・形状連携推進委員会 活動報告教育研究部会 活動報告大学運営部会 活動報告地域連携部会 活動報告評価委員会103

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