平成22年度 戦略的大学連携支援事業 活動報告書
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戦略的連携支援事業のプログラムカリキュラム委員会は、東京都市大学工学部と室蘭工業大学に共通する教育に関する問題である、理系科目の学力低下に関して協議し、以下の問題点に着目した。(1) 3次元的な視点の欠如(2) 基本的な式やグラフの重要性の認識の欠如協議の結果、これらの問題を解決するためには、適切な教育教材を開発・作製し、講義において活用することが必要であるとの共通認識を得た。そのため、東京都市大学と室蘭工業大学で、共同で教育教材を開発することを計画した。教育教材を共同開発するにあたって、当初以下のコンセプトに沿ったものであることが望ましいと考えられた。* なるべく汎用で、理系に相応しい教育教材であること。* 学生が手にとって扱えること。* 理系の基礎に使われる式などの理解を助けるモデルであること。* 何を示しているのかがわかる解説書を添付すること。* 継続的に学生に供給できるシステムを構築することで、連携の意義を示せること。このコンセプトにより、以下に示すような教育教材を両校で共同開発し、業者に作製してもらい、大学の購買部などで販売するという案を提案した。ただし、業者にモデル試作を依頼したが、現時点では、大量生産、販売するためのモデル作製を行うことが費用的に困難であることから、まず上記(1)に対しては、典型的な立体モデルを作製し、このモデルを実際に使って講義を実験的に行い、受講した学生の反応を調査して、その有効性を確認することを試みた。また(2)については、基礎的な公式やグラフを印刷したクリアファイルを試作し、それを学生に配布して、その有効性に関するアンケート調査を行うこととした。さらに、今後は関係各所において、この手法について紹介し、他のアイディアを募り、大量生産、販売についてはその後の検討事項とすることとした。以下に、具体的な教育教材の開発とモデル講義の実施、アンケート調査の結果について報告する。2-1 作製するモデルと期待できる効果①フーリエ級数を説明する立体モデル(70個)フーリエ級数・フーリエ変換は、量子科学、熱力学、流体工学、電気工学、情報工学、制御工学など、現代のあらゆる工学において欠くことのできない基本的な概念であるにもかかわらず、学生の多くはその概念を理解していない。フーリエ級数は、いかなる周期的な関数も、正弦波や余弦波の和により表現できることを示しているが、このことを把握させるために、立体的に余弦波を配し、その和を示したモデルを学生に見せることにより、この概念を理解させることを狙ってこのモデルを作製した。また、このモデルにより、周波数領域と時間領域の波形の関係を理解することが期待できる。②全微分の立体モデル(20個)偏微分は、多くの理系の大学生が、大学で数学を学ぶ際につまずく最初の概念であると考えられる。しかし、理解できたものにとってはあまりにも簡単な概念であるため、偏微分の意味とその重要性を認識させる工夫があまりなされていないのが現状である。偏微分の概念では、3次元空間での考え方が重要なので、立体モデルを使って偏微分と全微分の関係を示すモデルを作製した。このモデルを学生に見せることにより、空間と偏微分の概念、偏微分と全微分の関係を理解することができるようになることが期待できる。③オイラーの式の立体モデル(右らせん、左らせん、各50個)オイラーの式は、フーリエ変換やラプラス変換の基礎となる重要な式であり、機械の振動解析や制御理論、電気の交流理論や信号解析など、多くの分野で不可欠な概念であるが、高校ではあまり学習しない“位相”の概念が理解し難いため、多くの学生が、この式が表わす意味とその重要性を認識していない。この式では、実数軸のcos波と、実数軸から90°位相がずれた軸(虚数軸)のsin波の和としてら、教育教材共同開発の実施はじめに1立体モデルの作製とモデル講義2■ 教育研究部会 活動報告 プログラム・カリキュラム小委員会東京都市大学 工学部教授田中 康寛室蘭工業大学 大学院教授佐藤 孝紀室蘭工業大学 大学院准教授桃野 直樹連携推進委員会 活動報告教育研究部会 活動報告大学運営部会 活動報告地域連携部会 活動報告評価委員会26
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