平成22年度 戦略的大学連携支援事業 活動報告書
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燃料電池は高効率でクリーンなエネルギー変換システムで、その優れた環境適合性と省エネルギー性から最も重要かつ緊急な次世代発電技術として諸外国で活発に研究が行われている。中でも、現状で最も利用度の高い固体高分子形燃料電池には多量の白金触媒が用いられており、資源・経済の両面よりその実用化を阻む大きな障壁となっている。そのため、PEFCの実用化に向けて高い触媒性能と安定性を備えた非白金系電極触媒の開発が必須課題となる。これまで、非白金系触媒として鉄やコバルトなどの卑金属を中心としたN4系錯体の探索、高性能化、この他窒化物、炭化物等の材料も検討された。しかし、これらの触媒の性能は十分なものでなく、化学的安定性に重大な問題があり実用化に至っていない。CNTは、炭素材料の中でも化学的安定性・耐腐食性、機械的強度等に優れており、現状の白金系触媒の使用環境で生起する様々な性能劣化の問題点を克服できる可能性をもつ有望な素材である。しかし、CNTを用いた電極の特性は、CNT合成から電極形成までの履歴、使用する基板材料、化学修飾による化学的状態に大きく依存する。我々は、このCNTの特性を逆に利用し、これまで、触媒担体としてしか用いられてこなかったCNTに触媒活性を賦与し、CNT自身の酸素のカソード還元に対する電極活性を向上させ、導電性高分子や遷移金属酸化物とコンポジット化することにより高性能な非白金系カソード極の開発を推進してきた。研究目的研究では、電池の心臓部を構成する電極触媒/電解質界面を電極側界面と電解質界面の両面から進めた。電極側界面は、反応過電圧が圧倒的に大きく電池特性を支配する酸素カソード極に焦点をあてその非白金系触媒化と高性能化、電解質側界面では水管理システムを不要とし広範な非白金系電極触媒の積極的活用が可能となる無加湿中温域で動作する塩基性固体高分子膜の研究開発について、1)〜3)に従い実施した。1)できうる限り規格化されたCNT、N含有CNTを合成し、それ自身で酸素還元触媒能を持った電極設計、作製する。2)CNT、N含有CNTの分散インク調製法の確立、これらと導電性高分子をコンポジット化し、PPy/CNT間のsynergy effectによる触媒能発現の解明を行う。3)2)の結果に基づき、CNTと導電性高分子、有機金属錯体あるいは遷移金属酸化物とを熱処理によりコンポジット化を図り、化学的に構造制御された燃料電池用酸素カソード極触媒の開発を中心に研究を推進し、さらに開発した電極触媒を活用できる無加湿中温型塩基性固体高分子膜の開発についても研究を実施する。2.1. CNTの合成所望のCNT合成のための炭素源には、エチルアルコール、メタンガス、廃タイヤ抽出油を用い、基本的には気相流動触媒法を用いた熱分解CVD装置によりCNTを合成した(図1)。また、廃タイヤ抽出油を炭素源とするCNT合成は、抽出油を超遠心による分級、分留処理等を行った後CNT合成に供した。2.1.1. エタノールを炭素源とするCNTの合成配向性CNTの合成は、CNTの純度、幾何学的形状などをほぼ均一にすることができ、作製試験電極を再現よく調製できる利点がある。本研究では、エタノールを炭素源としてCoあるいはFe薄膜を蒸着した基板(グラッシーカーボン(GC)、カーボンペーパー(CP)、ステンレス(SS)など)上に窒素、水素、アンモニア等の混合ガス雰囲気下で600℃〜1000℃で作製した。まず、有機金属錯体を溶解し分圧を制御したエタノールを水素—窒素の混合ガスを用いて電気炉内に搬送し、GCあるいはSS基板上にCNT膜を気相触媒流動法により合成した(図2)。ダイナミックTG熱分研究背景1燃料電池用非白金系酸素カソード極の開発と高性能化室蘭工業大学 大学院 准教授 田邉 博義■ 教育研究部会 活動報告 研究小委員会研究実施方法2連携推進委員会 活動報告教育研究部会 活動報告大学運営部会 活動報告地域連携部会 活動報告評価委員会70

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