平成22年度 戦略的大学連携支援事業 活動報告書
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超高齢化社会を迎える日本において、現在新たな医療の枠組み作りが緊急の課題となっている。これからの医療の鍵となるのは、「病気にかからない」ことを基本とする日常健康管理の徹底である。そのためには家庭や職場など日常生活の中で気軽に使える身体生理情報の計測器開発が必要である。人間の皮膚を介した生理情報の光学的計測は、ユビキタス医療センシングの最も実現可能性の高い技術として期待されている。光を使った方式は、無侵襲、非接触な特長を有し、簡便な家庭用医療計測機器としての特長を備えているからである。 本教育研究プロジェクトでは、レーザー光を生体組織に照射した際に観測されるスペックル現象を利用した経皮的生体組織血流イメージング装置の開発をまず目指している。皮膚のレーザースペックルパターンから組織血流を計測する手法と装置はすでに知られているが、従来法は血流情報のみであり、組織内の血液濃度や酸素化状態などの情報を取得することができない。これらは血流以上に血液循環に関する医用診断や生理学的研究において重要な指標と言われている。室蘭工業大学では、血液濃度情報を検出可能な近赤外分光計測法とレーザースペックル血流計測法の融合による血流と血液濃度変化の同時イメージング法を新規に提案した。平成20~21年度までに、血液濃度計測に必要な2波長スペックル画像の同時撮影光学系の原理構成、改良と安定化を行ってきた。平成22年度は、21年度に両大学共同で試行実施した動物実験から得られた課題である撮影光学系の一体化を行い、麻酔下ラットによる血流イメージングを行った。 一方、光による生体のイメージング装置の開発には、光が皮膚組織をどのように伝搬するかについての基本特性の理解を併せて行う必要がある。そこで皮膚組織を多層構造モデルで置き換え、モンテカルロシミュレーションで光の伝搬をシミュレーションする手法を開発した。これを用いて光が生体組織のどの深さにどの程度のエネルギーを供給することが可能かを定量的に計算評価することをもう一つの目的とした。このことは、東京都市大学にて研究開発中の生体埋め込み型センサーへのレーザー光による効率的電源供給の実現を目指し、最適な照射条件、伝達可能深さと効率などを明らかにする上で重要である。 室蘭工業大学では、光およびレーザー光を利用した各種生体センシング法、イメージング法を研究展開しており、企業や他大学との共同研究実績がある。しかし、学内にて医療に関わる臨床的な研究、ならびに実験動物を対象とする研究を展開できる設備・環境がなく、技術を有する研究者もいない。これに対し、東京都市大学では工学部に生体医工学科を有し、動物実験を実施できる設備・環境があるとともに動物実験技術に習熟した研究者がいることから、両大学の連携により本プロジェクト研究が効果的に推進できる条件が揃う。さらに、東京都市大学で展開する生体埋め込み型センサーは、センサーへの電源を供給する手段として、安全性や利便性の観点から光エネルギーの活用を進めているが、学内では生体組織への光の伝達に関する研究実績がこれまでにほとんどなく、手探りの状態であった。一方、室蘭工業大学では上述のような光学的生体計測法の研究実績があり、この蓄積技術を活用することで生体埋め込み型センサーへのレーザー光による効率的な電源供給の実現を期待できる。このように、両大学の特徴とする技術と不足する技術を互いに補完しあう研究を展開できる点で連携の意義が高い。平成20年度~22年度にわたり、計10回にわたる研究打ち合わせ、実験、まとめを行った。 図1は、2波長を利用した血流および血液濃度変化の同時イメージング法にかかる原理光学系である。波長780nmと830nmのレーザー光を生体組織に照射し、その散乱光スペックル変動パターンを結像レンズ系、偏光フィル生体組織の光学特性及びエネルギー伝搬特性に関する教育研究■ 教育研究部会 活動報告 研究小委員会室蘭工業大学 大学院 教授 相津 佳永/東京都市大学 工学部 准教授 島谷 祐一研究の目的1連携の意義2レーザースペックル法による生体血流イメージング3連携推進委員会 活動報告教育研究部会 活動報告大学運営部会 活動報告地域連携部会 活動報告評価委員会97

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